キーワード解説:「核保有国」
突然ですが、問題です!
現在、核保有国は何カ国でしょうか。
第二次世界大戦からどのようにして現在の世界がつくられたのかを「核兵器」の観点から、また、核保有国について簡単に解説していきます。
核保有国:8カ国(2020年6月現在) 核兵器保有国(核拡散防止条約では認められていないが、保有している国) 核兵器保有が疑われている国
核兵器の歴史とNPT
「原子爆弾」と聞くと、広島、長崎を連想する人が多いでしょう。その通りです。原爆は第二次世界大戦中にアメリカが世界で初めて開発に成功し、日本に投下されました。
ご承知の通り、日本は世界で唯一の被爆国です。
この出来事は、核兵器の威力を世界中に示すとともに、「俺の国を怒らせるとこうなるぞ」という自国のアピールにもなりました。
戦後、東西冷戦に入るとまず、ソ連(現在のロシア)がアメリカに対抗するために核兵器の開発に成功しました。
すると、そこからは自分の国を守るためにイギリス、フランス、中国も開発に乗り出し、核兵器の数とその威力が科学技術の発達とともに大きなものとなっていきました。
そんな核開発競争の流れに終止符を打とうとしたのが、1963年に国連で採択された「核拡散防止条約(NPT)」でした。内容は、1966年末の時点で核兵器を持つ国は核保有国として正式に認め、それ以外の国は核兵器を保有してはならない、核兵器を他国に渡さない、というものでした。当初から加盟した核保有国はアメリカ、ソ連、イギリスだけでしたが、1992年にこの条約に加わったフランスと中国も「核保有国」として認められています。
これには、1962年にキューバ危機があったこともあり、核廃絶と世界平和を願う各国政府や国民の願いはもちろん、冷戦真っ只中で膨大となっていく防衛費を縮小させたいという意図がありました。
1970年に正式に発行したわけですが、この条約は核兵器は使ってはならない武器だと国際社会が確認した一方で、不平等な側面も持っていると自分は考えています。(もちろん、核開発にストップをかけるという意味では大変意義のある条約だとおもいますが…)
まず、五大国(アメリカ、ソ連、イギリス、フランス、中国)の核兵器保有を国際社会が正式に認めた上で、僕らも減らす努力をするから残りの国は核作るなよ!っと言っているのです。非保有国は逆らったら核が飛んでくる可能性があるわけですから、「お前らも核廃絶しろ」なんて言えませんよね。
核保有国に国際社会が忖度する形でこの条約が発行されているのです。(もちろん、保有国は自国が外交面で優位になるため、悪い気はしません)
しかし、世界同時核廃絶は現実的ではなく、さらなる開発が進む恐れもあることから、いわば「現状維持」のNPT体制は機能していると言えるでしょう。
発行後、アメリカとソ連は核開発競争がヒートアップして核の数が増えた時代もありましたが、一応、この条約のおかげで??現在まで核戦争には至っていません。
2019年現在、NPTに加盟していない国は、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮(脱退)、南スーダン(2011年に出来たばかりの国で、まだ様々な国際機関に加盟する体制が整っていないため)の5カ国です。
核保有国(5大国)
アメリカ
先程も述べましたが、世界で初めて核実験を成功させたのは1945年のアメリカです。
当初は日本を攻撃するためでなく、ナチスドイツが核兵器を持ったら大変なことになると考え、それに先駆けて完成させました。
以後、核実験を続け、その脅威は世界の警察と言われるまでになりました。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、アメリカで唯一の核のボタンを起動させることができるのは大統領であり、職務中も休暇中も、常に周りの人がボタンを携帯しています。
ソ連(ロシア)
アメリカに遅れること5年、ソ連が核実験を成功させました。
当時、冷戦の真っ最中、ソ連は最初の実験に成功すると自国の広大な土地を利用して壮絶な勢いで実験を繰り返しました。
現在では核弾頭の数はアメリカを追い抜き、世界で最も核弾頭を保有する国となっています。
イギリス
イギリスは上記の2カ国に次いで3番目の核保有国となりました。
保守党のチャーチル政権が発足し、国内では労働党からの批判も大きかった中、小国の島国であるイギリスは自国の影響力の弱体化を恐れ、1952年、オーストラリア近海での核実験に踏み込みました。
国内での批判もあがりましたが、その後も自国の力を誇示するため、実験を重ねました。
また、先陣を切って核兵器の開発に反対していた学者ラッセルは、イギリス人です。
現在、イギリスの核弾頭の多くは潜水艦に搭載されています。
フランス
イギリスがアメリカのデータを引き継いで核実験を成功させたのに対して、フランスは独自で開発を進めていきました。初めて成功したのは1960年のことです。
冷戦中、西側陣営でアメリカ、イギリスが核兵器を独占保有し主導権を握っていたことに反発した当時のド=ゴール政権が核実験に積極的に踏み切りました。
アメリカ、イギリスの反対がありながらも実験に成功し、2カ国と対等な関係を保持すると、NATOを脱退し、独自の防衛体制を整えました。(アルジェリア問題など、核開発意外にもフランスが米英と対立していた要因もありましたが、今回は割愛します)
フランスは、2009年にNATOに完全復帰しています。
中国
1964年に中国は、アジア初の核兵器保有国となりました。
広島への原爆投下以来、世界平和(均衡)を維持し戦争を抑止するためには、全ての国が核兵器を保有すれば良い、と考えていたのが毛沢東でした。
日中戦争の戦場となり国内も混乱していた中国は、様々な技術開発をソ連に頼っていました。そんな中国が核実験に踏み切った理由の一つが、1950年代の中ソ対立であると言われています。
ソ連は、「ソ連が中国はに核を提供することは、アメリカが西ドイツに核を提供する口実を作り得る」として、中国に核兵器に関する情報を渡すことを拒否しました。
そこで中国は、ソ連に従属するのではなく独自の影響力を保持しようと、
1959年に中ソ技術協定を破棄して、ソ連にいる技術者を帰国させて核開発を決断しました。
その他の核保有国
インド
世界第2位の人口を抱え、2020年代には中国を追い抜き人口世界1位に躍り出るとされているインドも、実は核保有国なのです。
初めて核実験を行なった1974年、ガンジーは原子力の平和的な利用が目的だと主張しましたが、1970年に発行したNPTについて、「5大国の軍事的優位性を加速させるものだ。」として加盟を拒否した4年後の核実験ですから…
真の目的は他の保有国と同様、自国の軍事的影響力の保持であったことは明白でしょう。
中国の西側、ロシアの南側に位置するこの大国は1998年にも核実験を行ない、続けて後述のパキスタンも核実験に踏み切ったことで、南アジア世界に緊張が走りました。
パキスタン
インドと分離する形で独立したパキスタンは、独立以来現在に至るまで、カシミール地方の帰属を巡ってインドと対立しています。(2019年2月にも空爆しあうほど根深い対立と緊張が続いています)
その後、3度にわたってインド=パキスタン戦争が勃発しました。
以前から中国の協力の元、核開発が進められてきましたが、1998年のインドの核実験後、
インドに対抗するためすぐにパキスタンでも核実験が行われました。
パキスタンの核開発に関しては、当時輸出規制がされていた遠心分離機(核開発における重要なパーツ)を日本企業が提供していたのではないかという疑惑があります。
また、パキスタンは冷戦終結後初めての核保有国となりました。
北朝鮮
たびたびニュースで話題となる北朝鮮ですが、朝鮮戦争休戦以来、核兵器の開発を進めてきました。
理由は、もちろん、自国の影響力の誇示ですが、北朝鮮は核実験の中止というカードをチラつかせながら、経済制裁緩和を求めて国際社会との駆け引きをしています。
もともとNPTに加盟していましたが、1993年と2003年に脱退を表明し、2006年に初の核実験を行ないました。
北朝鮮については以前の記事でも少し紹介していますので、お時間のある方は是非ご覧ください。
イスラエル
正式に核保有を肯定していないものの、イスラエルは核兵器を保有していることが確実であるとされています。イスラエルは中東で唯一のNPT非加盟国です。
1979年に核実験を行なったとの疑惑が浮上しましたが、アメリカの調査でこれは否定されました。(しかし、アメリカとイスラエルは同盟国です)
イスラエルが核実験を決断した理由は、やはりアラブ地域との対立です。
第1次世界大戦後のイギリス多重舌外交によってアラブ地域は現在まで紛争状態が続いており、そのことが背景になっていることに疑いの余地はありません。
イラン
イランもイスラエル同様、核兵器の保有を疑われている国です。
2002年、内部告発によって、イランには以前から核開発の計画があったことが暴かれ、国際社会から嫌疑をかけられました。
原子力を利用するためには国際原子力機関の承認がいるのですが、2003年、国際原子力機関の許可なくウランを濃縮する施設を建設していたことが判明しました。
それにより、イランは軍事的利用が可能な核兵器の開発に乗り出している、あるいは完成しているとされています。
しかし、イラン政府は原子力の開発を認めたものの、軍事的な核兵器の開発には否定を続けています。
シリア
シリアでは、核兵器開発に必要なプルトニウムを製造するための施設が、北朝鮮の支援によって建設されたとされています。
しかし、北朝鮮がこれを否定しています。
施設自体はイスラエルによって破壊されましたが、シリアは国際社会で孤立しており、政府軍と反政府勢力による紛争状態が続いているため、詳細は不明です。
核保有国、核保有疑惑国は以上の11カ国ですが、最近では、サウジアラビアとミャンマーも疑いがあるのではないかとされています。
今後、各国の偵察機や衛生がさらなる進化を遂げれば、その実情がはっきりしてくるかもしれません。
核廃絶の動きは?
広島・長崎の原爆投下、第五福竜丸の事故、キューバ危機など、核兵器をめぐっては様々な出来事があります。
その度に、国際社会は核廃絶を訴えるものの、核保有国は減るどころか増えています。
核兵器は使ってしまったら世界が終焉を迎える武器であると、誰もがわかっているのにその脅威が現在のバランスを保っている、というのは何とも皮肉なものです。
日本についても同様です。
世界唯一の被爆国でありながら、現在、同盟国のアメリカの「核の傘」に守ってもらっているという現状があります。
自分は核保有については反対ですが、現在の均衡を保つためには核兵器は仕方ないものであると考えています。
正直、この結論を述べること自体、悔しいです。
確かに、核兵器は生物も国も文明も、全てを破壊する、決して開けてはならないパンドラの箱であることを知っています。
しかし、仮に核兵器保有国が集まって今すぐ完全に廃絶しようと約束をしたとして、それを信用し合えるでしょうか。
どこかの国が抜け駆けしたら…
少しでもこう思ってしまう国が出てきたらどうなるでしょうか。
現状を変えるのは難しいでしょう。
核兵器は、権力者の駆け引きの道具のように使われていますが、権力者の方々も、それがどのようなものなのか、絶対に忘れてはならないのではないでしょうか
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